[Echo]:いまはもういないあなた。

 基地に新しい機体がやってきた、というニュースはあっという間に駆け巡り、聞きつけたパイロット達(僕も含めて)でハンガーは大盛況になっていた。
 新しいと言っても相変らず台所事情は厳しいから最新鋭機なんか無理すぎる相談なわけで、つまりは現在ISAFがメインで…というより他に使えるものがないので使っているF-4やらF-5よりは新しい、程度だし、各飛行隊に同じ機種を揃え切れていなかったりもするのだけど。
 それでも、みんなの顔は嬉しそうだし、実際僕も嬉しいのは間違いない。
 オメガ隊の連中がトーネードとF-14Aに歓声を上げていたり、レイピア隊のみんながホーネットに狂喜乱舞していたり。これからよろしくな、と真剣な顔で機体を撫でているやつもいる。
 とりあえず、現状は作戦次第でどっちかに間借りしているメビウス隊(実質僕と後席員のオヤジさんの二人っきり)には…たぶんトーネードかF-14Aじゃないだろうか、オメガ隊に厄介になる事多いし。
 そんな事を思いながら、そういえばオヤジさんはどこ行ったんだろう、とあたりを見回して…僕は、一瞬自分の目を疑った。
 F-15がいる。カナードのついた、ちょっと風変わりな。
 とはいえ、それだけなら、何か凄そうなのがいる、で終わったのだけど。
 「彼女」は尾翼に鮮やかな空色のリボンを飾り、あまつさえ、ご丁寧に機首には「01」のナンバーまでもがステンシルされている。
 思わず駆け寄れば、整備中らしくあちこちを解放した彼女の足下には珍しく神妙な面持ちのオヤジさんがいた。
 「オヤジさん、この子は?」
 「アイツのとこに回ってくるはずだった機体だよ…結局、直前に開戦しちまって届かなかったんだがな」
 奇縁ってやつだなあ、と呟いて。
 「…乗るか?」
 横合いからいきなり掛けられたその言葉に、息が止まる。
 「…僕は、いいよ……このこは、単座だし…………隊長の、機体だし。僕の乗る機体じゃ、ないよ」
 言葉が、上手く出てこない。
 他に理由はあるかもしれない。
 ただ、でも、確かに、彼女は「メビウス1」の乗るはずだった機体で、それは、あのひとのコールサインで。
 だから、僕は。
 「…アイツはもういねェ。今はお前が[メビウス1]だ」
 強くもなく重くもなく、何て事のない呟きにも聞こえるその声は、それでも、たぶん僕だけに、とてつもなく鋭く突き刺さる。
 「…………」
 言葉が見つからないまま、彼女から目をそらしてしまった僕には、そんな僕を見下ろすオヤジさんの顔は、見えない。
 「…まあ、それならそれでいいさ。どうせこいつも当分は飛べないそうだしな」
 そもそも俺の一存で決められる訳ないだろう、と笑われて。そういえば、と気付いて僕もようやく笑う事ができた。
 「……うん」
 だったら、その間に再塗装して、新しいパイロットに引き渡してもらえればいい。
 良い機体なんだから、良いパイロットが乗るべきだし。
 「とりあえず、僕らが今乗る機体を見に行こうよ…次からの大事な相棒だよ?」
 それは本音だったし、これ以上その話題を続ける事を拒否するための言い訳でもあって。
 自分でも良く判らないもやもやを振り切るように、僕は、彼女に背を向けた。


未来の乗り換えフラグ。この頃のメビウス1(結局F-14A乗り)は自分のコールサインにまだ違和感。
初期機体のF-4が複座なので後席員はどんな人だろう、とつらつら考えていたら「先代メビウス1の後席員だったベテランおやじ」というコテコテな人が出てきました。