[Invincible Fleet]:群青の女王。

 << すべてのターゲットへの攻撃を許可する!無敵といわれたエイギル艦隊を沈めろ! >>
 良く通る声が高らかに告げ、最後に幸運を祈る、と付け加えた。
 その声を待っていたかのように、各航空隊が一斉に港へと襲いかかる。
 << 前方に敵艦隊、旗艦タナガーを確認!女王様のお出ましだ! >>
 見下ろす湾上に、その姿はまだ遠くて小さいけれど。
 [群青の女王/Queen of NAVY]の渾名にふさわしい、多数の艦を従えたそのシルエット。
 「綺麗な艦なんだよねえ」
 お世辞抜きでそう思いつつ。
 あのひとが購読してた雑誌を皆で回し読みした、あのラウンジの思い出も一緒に連れてくる姿が段々と大きくなるのを見据えるうちに、何とも言えない笑いが口の端っこを歪ませる。
 「…まさか本物のタナガー拝む日が来るなんて思わなかったな」
 しかも、こんな形で。
 そしてたぶんこれが、最初で最後の謁見のチャンスだ。
 無敵の艦隊を率いる女王の首を獲るならば、補給もままならず足止めされている今しかないのだから。
 もちろん、女王様だって黙って首を獲られる気も無ければ白旗を揚げる気もないだろう。
 その証拠に、彼女と彼女の率いる艦は猛烈な対空砲火(正直言うと、僕の予想なんか遥か彼方に置き去りにするようなとんでもない弾幕で度肝を抜かれたのは内緒だ)を打ち上げ始めた。空母からも、運良く(あるいは悪く)攻撃を逃れた艦載機が上がってくるのが見える。
 << レイピア、メビウス、2時方向から敵機 >>
 駄目押しのようにスカイアイが告げる。ああもう、仕事とは言えどうしてこの男ときたらこの状況下でこんな澄ました声をしてるんだか。
 「下に気を取られてケツ取られんなよひよっこぉ!」
 「判ってるよ!」
 後ろの叫びに怒鳴り返す。
 大丈夫、上空で僕らと一緒に対艦組の援護に当たっているレイピア隊のみんなは信用できるし、どうせありったけぶっ放せばこの子だって軽くなるんだ、と半ばヤケクソ気味な事を考えながら。

 対艦ミサイル、誘導爆弾、無誘導爆弾…ありとあらゆる火力が群青の女王とその臣目がけて降り注ぐ。
 << 敵イージス艦に命中! >>
 << 巡洋艦フェンリス撃沈! >>
 その頭上で互いに噛み合う隙を狙って飛び交う戦闘機。
 << やられた、くそ!何とか飛んでる! >>
 << 僚機が弾幕につっこんだ! >>
 まさか自分がその中にいるなんて、しばらく前まで想像できなかった光景の中を飛び抜ける。
 << 敵巡洋艦撃沈! >>
 撃墜の、撃沈の、被弾の、補給のコールがせわしなく行き交う空。
 << イージス艦レイヴン撃沈! >>
 << 空母ジオフォン撃沈! >>
 炎上する甲板上に、撃墜された一機が墜ちていく。
 << 上空はあらかた片付いたようだ…メビウス1、港に向かった連中のほうを頼めるか?こっちも行きたいが弾切れのヤツが多い、補給に戻らせたらすぐ向かう >>
 << メビウス1了解。まだもう少し余裕があるから頑張ってみるよ >>
 レイピア1の声に応えて機首を翻した僕の耳に、良く通る声が告げた。
 << 戦艦タナガー、撃沈! >>
 「沈んだ、か」
 オヤジさんが、独り言のようにぼそりと呟く。
 「みたいだね」
 僕も、独り言のようにそれに答える。
 斯くして群青の女王はついにその首を刎ねられた、と芝居がかったフレーズが頭をよぎる。
 ちらりと振り向けば、意外なほど近くに彼女はいた。
 黒煙と炎をあちこちから噴き上げ、もう動けない満身創痍のその姿は、それでも変わらず威風堂々の言葉がふさわしくて。
 臣を失い首を刎ねられてなお、膝を折らない女王様。
 これは勝てなかった訳だよ、こんな凄い艦と、彼女を名実ともに[群青の女王]にふさわしい艦にするほどの艦長が率いていたんだもの。
 「…オヤジさん、女王様に挨拶していきたいけど、いいかな」
 「いちいち俺に聞くんじゃねえ、お前が決めろ」
 だからお前はひよっこなんだとか、そろそろ自分で飛べだとか呟く声を背中に、僕はタナガーの周囲をゆっくりと大きく旋回する。
 「綺麗な艦なんだよねえ、ほんとに」
 別の形で会えたら良かったと、そう思うけれど。
 残念ながらそうはならず、僕らが必死に彼女を沈めにかかったのと同じくらい彼女たちも必死で生き延びようと足掻き、そしてほんの少しだけ、僕たちに分があった。
 いつだって手元に残るのは結果だけで、仮定はあまり意味を持たないし、持てない。
 だから僕たちは無言のまま、群青の女王にお別れの敬礼を送る。

 さようなら、女王様。貴女の、そして貴女に連なる全ての魂に安息を。


ゲームでは意外とさっくりなエイギル艦隊戦。対空砲火怖くてあんま近づかないので実際にはほとんど見てないのですが、タナガーは綺麗な艦だろうなあと思ってたり。
[群青の女王]は何か突然降ってきた妄想です。オフィシャルで何かありましたっけ、呼び名…