[Comona]:空を掴んで星を目指せ。

 南洋の楽園、コモナ諸島。青い海と白い砂浜、サンゴ礁の織りなす景観を間近に、最高のサービスで心安らぐひとときを。
 老舗観光ホテル「コモナ・アイランドリゾート」の宣伝文句を何となく思い出しながら。
 「南洋の戦場、コモナ諸島。青い海と白い砂浜、サンゴ礁の織りなす景観を間近に、最高の空戦でスリリングなひとときを…?」
 つまらない冗談飛ばしてる場合じゃないでしょ僕、と自分でツッコミながらも、思わず呟く。
 作戦開始時刻からそれほど経ってないっていうのに、コモナ・ベース上空には数えるのも厭になるほどの戦闘機がひしめき合っている。何だこの大盛況。
 『こちらコモナ・ベース中央管制室。作戦遂行中の全機へ。打ち上げのチャンスは今しかない。ロケット発射まで制空権を守ってくれ』
 シンプルな、でもだからこそ真剣な言葉を送ってきたコモナ・ベースを見下ろせば、発射台に据え付けられて打ち上げの時を待つロケットと、その隣で未だ野晒しになっている発射台とロケットの残骸。
 これまで何度か衛星打ち上げを試みたISAFは、そいつを全部エルジアに潰されている。僕たちがここでしくじれば、もう後が無い。
 だから、絶対に失敗はできない。衛星打ち上げスタッフのみんなだって、もう二度と同じ光景なんか見たくないに決まってるんだから。
 << この状況じゃあ、いちいち撃墜確認は無理だな >>
 誰かがこぼした言葉に内心うなずきながら、乱戦なんて生易しいものじゃない戦闘空域に突っ込む。
 << 間違えて味方を撃つなよ? >>
 冗談めかしたヴァイパー1の言葉は、意外とシャレにならない。何しろ、そんな大きな島にあるわけでもないコモナ・ベースのほぼ真上で、いつ衝突してもおかしくないほどの密度で戦闘機が飛び交っているわけで。
 後ろを取ったと思ったら味方機だったとか、逆に味方機にしばらく貼り付かれて慌ててコール入れたりなんかはザラだし、下手すると敵機の援護をしそうになったりされちゃったりする混乱っぷりたるやもう何というか…半端無い。
 そんな中、新しい相棒は思った以上にこの状況にハマってくれている。多少危なっかしい状態でもこっちのペースを掴みやすいのは流石だけど、この子にとって初の実戦がこの大乱戦ってのは良いのか悪いのか、どうなんだろう。
 これだけダンゴになってちゃ管制も当てにならないからか、スカイアイも今日はやけに無口だ(当然ながらサボっていた訳ではなく、単に主戦場になってた区域で聞き取れなかっただけで周辺の警戒やら交戦エリアからはみ出した奴へのフォローとかはきっちりしてたらしい)。
 無線も随分混線している。「黒4、右へ振れ!」とか「青8、墜落!」ってどう聞いてもエルジアのコールサインだよね、これ。
 << ルーキーは黄色に近づくな! >>
 そんな中に交じり込んできたコールに、ぎくり、とした。
 << 撃墜、…墜! >>
 << …レイピア4、2機に狙わ……るぞ。回避しろ! >>
 << ヴァイパー9が黄… >>
 << …オメガ11、黄色にやられた!脱出する! >>
 それまで半ば聞き流していた無線に耳を傾ければ、所々に混じる黄色中隊の名前。
 いるのか、あのひとたちが。…いや当然だ、何せこの戦いはどっちにとっても正念場なんだもの、出てこない筋は無い。
 たぶん、彼らにしてもこの大乱戦じゃ単騎で飛ぶはめに陥って、お得意の連携は難しいだろう…だったら、可能な限り周囲に目を配って、前に飛び出さないようにすれば少なくとも食い付かれる事はない、はず。それが上手く行くかはまた別だけど。
 とりあえずは目の前に飛び出してきたうっかり者にガンを叩き込んで、後ろに貼り付いてきた敵機を追い払ってくれた誰かにお礼をする。誰かを追いかけてるヤツの後ろに割り込んで叩き落とし、そのまま飛び抜けようとした僕の前を横切ったのは。
 翼端を黄色く染めた、フランカー。
 誰かを追いかけているのか、僕に目もくれず上昇していく翼を視線で追うより速く、機体を捻る。
 どこまでも相手の先を見越すような滑らかな機動。夢でうなされるほどに目に焼き付いた、あの綺麗な飛び方に似ているけど…少しだけ、雑さが見える飛び方。
 あのひとじゃあないのか、と安堵しつつ、もう一度あれを目の前で見たかった気もして。ちょっとだけ失望した、かもしれない。
 そんな考えを振り払って、黄色い翼の行く先を追う。その向かう先が、見えたような気がしてスイッチを押し込む。
 …………………いけた!
 着弾だけを見届けて、即座に離脱。当たったって言ってもまぐれ当たりに近いんだ、深追いしたら危険に決まってる。
 すぐそばで繰り広げられていた三つ巴の追い掛けっこに牽制をかけながら一気に飛び抜け、激戦区からちょっとだけ外に出て、さて次は、と一息ついたところで。
 << ……い、見ろ!黄色が煙を噴い……ぞ!だ…がやった!? >>
 誰かが叫んだ。敵だか味方だかは混線しまくりで良く分からない。
 << …くそ、どいつに………たんだ?誰か、俺を撃っ………を………てくれ >>
 今度は撃たれた当人らしい声。幸いというか何というか、やっぱり僕には気付いていなかったようだ。
 よし気付かれていないうちに逃げちゃおう、と、僕は気付いたらごっそり撃ち尽くしていた弾薬を補充するべく、大急ぎで戦場を後にした。

 「よう[リボンの魔女]、お手柄だったな」
 補給作業待ちの僕の肩をそう言って叩いたのは、どうやら今さっき戻ってきたばかりらしいヘイロー9。
 「…なにそれ」
 「黄色のケツにブチ当てたの、お前さんだろ?大騒ぎだったぜ、『リボンの奴が黄色に一撃かました』『どんな魔法を使ったんだ』って。ホントどんな魔法を使ったんだい、この魔女っ子め」
 「連中もまさかの一発だったんだろうな、揃ってお帰りになっちまったよ…おかげで少しだけ状況が良くなった」
 いつの間に戻ってたのか、オメガ1が後を引き継ぐ。
 「やだなあ、あの大混戦だから当たったようなもんだって…おまけにこうしてさっさと逃げてきちゃったし」
 「まあマグレも実力のうち、って事にしとけ。何せ黄色の横っ面はたいたんだ、ちょっとぐらい調子に乗ってもバチは当たらないぜ」
 「だといいけど…次が怖いよ、因縁付けられたら大変だ。それこそ魔法でも使わなきゃ逃げられない」
 そんな会話を交わしてちょっとだけ笑い合う、ほんの僅かな間の休憩は作業終了の声で終了。
 「じゃ、お先に」
 「幸運を…ああそうだメビウス1、ちょっと」
 機体へと向かう僕を、オメガ1の声が引き止めた。
 「気付いてたか?現時点でエルジアの連中、空対空装備しかしてないようだ」
 そう言われてみればその通り…ロケット打ち上げ阻止が目的ならば対地装備のやつがいるはずなのに、あの大乱戦中に地上に攻撃された気配も無ければ、しようとした奴を見た覚えもない。
 「って事は、どっかに本命が?」
 「ああ、そのうち出てくるはずだ。スカイアイからも警戒するよう言われてる…あの状況だから面倒だとは思うが、覚えといてくれ」
 了解、と一つ頷いて、僕は再びF-15ACTIVEに乗り込む。
 星を目指す光を、みんなの希望を、みんなの手で宇宙へと送り届けるために。大丈夫、僕たちならやれると、そう信じて。


ここから始まるリボンの魔女っ子伝説(笑。実際ゲーム内でもこのへんから一気にメビウス1の主人公補正に磨きがかかってる気が。
[ソラノカケラ]は全体的にどんよりしたミッションの多い04の中では珍しく深く考えずに飛び回れたり、BGMも果てしなくノリノリで何だか異彩を放っているミッションだと思います。3のコモナ戦[Reaching for Stars/Zero Gravity/Technology Transfer]を踏襲した流れなのも好き。