[Stonehenge]:空を取り戻せ。

 2005年、4月2日。快晴。
 恐ろしいくらいに澄み渡った春の空の下、僕らは飛び立った。
 目標、ストーンヘンジ。
 << 英雄、凄腕、エース、ベテラン、へっぽこ、青二才…今までストーンヘンジと黄色中隊は、ありとあらゆるパイロットを喰ってきた >>
 珍しく、スカイアイが軽い口調で、でも真剣な声で呟く。
 << 世間は、そろそろ新しい英雄を欲しがっている。そして、そいつには君たちがふさわしい、と思っているようだ。だが、死んでしまったらそんなものに意味などない…全機、生き残れよ。絶対に >>
 << そんなカッコいいもの、ガラじゃないけどね…でも、何とか頑張ってみるよ >>
 頷けば、返ってきたのはスカイアイではなく、オメガ1の笑う声。
 << なあに、今回も期待してるぜ、メビウス1。あのデカブツをお前さんの「魔法」でぶちのめしてやれ >>
 << 昔から巨人退治は魔女より仕立屋のお仕事だよ。そもそも僕はそんなスゴい事してないって >>
 << 結論は帰ってから出せばいいさ…S.T.N(ストーンヘンジ)まで方位350、あと8マイル!そろそろ対空砲撃が来るぞ、高度を下げろ! >>
 スカイアイの声に、各機が一斉に高度を下げる。フェイス=パークやイスタスと違って低高度飛行を妨げるような障害物が無いのは本当にありがたい。もっとも、空からも地上からも丸見えではあるのだけど。
 だけどそれは、ストーンヘンジも、その防衛戦力も一緒のこと。つまるところは「ノーガードの殴り合い」ってことだ…どちらかが倒れるまでの削り合い。
 << 情報通り、ジャマーが設置されているようだ。現状でのミサイル誘導は困難だ…ガンで破壊するしかないな。メビウス1、頼んだぞ >>
 << 行け、メビウス1! >>
 << アンタが頼りだ、期待してるぜ >>
 << いったれ魔女っ子!S.T.Nの守りをひっぺがしてやれ! >>
 << ああもう、みんなして僕を何だと…メビウス1りょーかい、支援よろしくお願いしますっ >>
 ヤケクソというか開き直りというか、正念場を控えた変なテンションというか、何かもう良く分からないノリの会話を終えるより早く、全航空戦力が一気に散った。ヴァイパー、オメガ、ヘイローがストーンヘンジ周辺に展開している地上戦力めがけて襲いかかり、レイピアが上空の戦闘機へと牙を剥く。
 その間を縫うようにして、僕は相棒をストーンヘンジの中央目がけて突っ込ませた。
 ゆっくりとこちらを向こうとする巨大な砲身の横を抜け、纏わりつこうとしてくる翼を振り切って、まずは上昇。目標までの距離を確認、鋭角に突っ込みながらトリガーを引き…着弾確認と同時に一気に引き起こす。
 背後で、さほど大きくはない、けれども確かな爆発音と震動。
 << ジャマーの破壊を確認、レーダークリア! >>
 << 了解、今までやられまくった借りを返すぞ! >>
 ヴァイパー2が声を張り上げる。利子もきっちりつけてな、とヘイロー4が続ける。
 << 遠慮はいらない、ありったけブチ込んでやれよ!爆弾抱えて死んだら大損だ >>
 オメガ11の笑い声。それはお前だ、全弾撃たずにベイルアウトしたら丸損だぜと混ぜっ返すレイピア5。
 ふざけてると言えばそうかもしれない、でも、そうでもしなければストーンヘンジの巨大さと威圧感、そして今までの苦い思い出が連れてくる恐怖を捩じ伏せられない。
 << くそっ、何発ぶち込めば倒れるんだ!? >>
 << 脚だ、脚を狙え! >>
 旋回させるだけで、航空機なんか簡単に粉砕できる巨大な質量の砲身が砲弾を吐き出すたびに空気が歪む。震える機体を、震えそうになる手を抑え込むように、操縦桿を握りしめる。
 << 後ろはダメだ、隔壁で止められる! >>
 ならば横か、あるいは…真正面。砲身の下に入れれば、喉元に食い付ける。周りに展開されている地上戦力も、ストーンヘンジの砲身に当たりかねないような攻撃はそうそうできない、はず。
 試すか?僕の運を。
 一瞬だけ自問、答えるより先に旋回。
 まさか僕の動きを狙ってでもないだろうけど(何せ周囲はISAF機だらけで、砲身はひっきりなしに旋回している)、タイミング良くこちらを向いたストーンヘンジの砲身が、誤って側を飛ぶエルジア機を叩き潰した。
 その光景に思わず竦み上がり、それでも進路は揺るがせず、僕は思い切ってストーンヘンジの射角よりも下、砲身の真下に潜り込むように高度を下げる。とはいえ、対空機銃やSAMの射程には入っているから気は抜けない…さあどうするエルジア、僕を墜とすか、S.T.Nに傷を付けるか?
 まあ、構わず撃ってきたのは予想通り。とはいえ、やっぱり躊躇いがあったんだろうか、機銃の斉射のみ。どうやら僕の運は悪くなかったらしい。
 << メビウス1、投下! >>
 機首を引き起こしながらストーンヘンジの足下へとFAEBを放り投げ、そのまま横を飛び抜ける。少し遅れて鈍い音と衝撃、そして。
 << ターゲット、沈黙!残り6つだ >>
 << いいいぃやっほぅ!いいぞメビウス1! >>
 << いいぞ、このままやっちまえ!次はどいつだ、援護するぜ! >>
 スカイアイの声に、四方から歓声が沸き上がる。
 「やれる」という希望が出てきたことで、それまで無理矢理戦意を維持させるために保っていたテンションが変な方向に弾けたんだろうか、僕の口からも歓声と笑い声。
 << 了解、メビウス1やっちゃいます!目標は5時方向の砲台! >>
 << オメガ、ヴァイパー、地上は任せた!俺らは上空のエルジア野郎どもを蹴散らす! >>
 << 行くぜ、1基でも残したら戦争は終わらないからな! >>
 << 生きて帰れりゃ俺らも英雄様だ! >>
 恐怖も不安も虚勢も希望も何もかもがごたまぜになった、なんかもうひたすらにマトモじゃないハイテンションの中。僕らは笑い、叫びながら飛び回った。

 << 目標、破壊!繰り返す、メビウス1が目標を破壊した! >>
 熱っぽく叫ぶ声に我に返れば、真下には名前通り、環状列石のように沈黙するストーンヘンジ。
 << ひゃっほう!やったぜメビウス1! >>
 << ほんとにやっちまいやがった、この魔女め! >>
 << こちらスカイアイ、レーダーでもストーンヘンジの破壊を確認した >>
 スカイアイの声すらも、どこか浮き足立っている。その浮かれた声のまま、我らが管制官は恐ろしい事を言い放った。
 << だが、ただでは帰してもらえんようだ…5機の機影がマッハ2で接近中 >>
 そうだ、黄色中隊だ。S.T.N防衛部隊でもある彼らが現れないのは何故だろうと思っていたのに、この異様なテンションですっかり頭から抜け落ちていた。
 だけど、未だに僕らを酔わせるその残滓は、僕らから恐怖を完全に剥ぎ取っている。
 << 大丈夫、こちらのエースはヤツらより速い!交戦を許可する!! >>
 高らかに叫ぶスカイアイの声に青ざめたのはきっと僕だけ。何て事言ってくれやがるんだ、この男!
 ああ、でもそれがキミの僕に対する評価なら、みんなが僕に向ける信頼ならば、僕はその期待に応えようじゃあないか。
 あの時、北の空の下で一人きり遺されたと思い込んでいた僕を、今はもういないみんなが、今ここにいるみんなが、ここまで連れてきてくれたんだ。
 そして、きっとこの先も。
 だから大丈夫。僕は、飛べる。
 迫り来る5つの機影を見据えて、僕は吼えた。

 << メビウス1、エンゲージ! >>


これはさすがに外せません、ストーンヘンジ破壊ミッション。
とはいえ、あまりだらだら書くとくどいかなというわけで黄色戦は割愛…いえ決して空戦機動書きたくないとか、ミッションアップデートするなり速攻基地に帰還、対空ミサイルに換装して撃ち落としにかかってるからマトモに覚えてないとかそういうのでは決して。決して。