[Pride]:インタビュー・ウィズ・エース'05。

 開戦以降エルジアにより占拠され、対空兵器として運用され続けた衛星迎撃砲「ストーンヘンジ」。
 それを破壊するという快挙を成し遂げた英雄、「メビウス1」と呼ばれるISAF空軍が誇るエースパイロットは記者の予想に反して、どこかあどけない面持ちを残した、少年兵と言っても差し支えないほどの若者であった。
 以下に記者による彼…メビウス1へのインタビューを記載することとする。

 ---はじめまして…早速ではありますが、正直驚きました。噂の「リボンの英雄」がこんなお若い方とは思わなかったので。
 「はじめまして…年の事は良く言われます。普段は英雄どころかひよっこ呼ばわりですよ。まあ、そっちのほうが似合ってると思ってますけど(笑)。」
 ---いえいえ、今回のご活躍ならば立派に英雄ですよ。単騎でストーンヘンジを壊滅させたそうですね。おめでとうございます。
 「ありがとうございます。…ただ、確かに直接ストーンヘンジ陥落に繋がる攻撃を行ったのは僕かもしれませんが、そのために多数の人たちが航空支援や地上支援、情報支援を行ってくれたからこそ、だと思っています。」
 ---ISAF全ての手による勝利、ですか。
 「はい。」
 ---その直後の戦闘でストーンヘンジ防衛隊と交戦、一機を撃墜されたとも伺っておりますが。
 「黄色中隊ですか?…あ、言っちゃって良かったですかこれ?(傍らの広報官を振り向いて頷き)…ええと、黄色い機体で構成された部隊でしたので、僕らの間ではそう呼ばれていました。エルジアでも有数の航空隊だと思います。」
 ---それを撃墜ですか!素晴らしいですね!
 「…あまり褒められたものでもないです。あの機は、明らかに挙動の切れが悪かった。機体の不調だったのか、パイロットに何かあったのか…なんにしろ、相手の隙につけ込むような事をしてしまっているわけですし。」
 ---ご自分の戦いが、その…フェアではなかったと?
 「そう思ってもいますが…同時に、戦時下において本当にフェアな戦い、というのはありえないとも思っています。それに、航空機を本当にベストな状態に維持する事はとても難しい事ですし。それでも維持整備に関わる人たちが万全を尽くしている以上、空の上ではパイロットが自分の機体に責任を負わないと。」
 ---なるほど。それは貴方自身のモットーのようなもの、という事でしょうか?
 「そう捉えて下さっても構わないと思います。僕自身、明確なものをもって空を飛んでいるわけではありませんが、少なくとも僕らパイロットを空に上げるために尽力してくれる人々や、空の上で支えてくれる人々に報いるためにも、そう思う自分自身のためにも、その時点で可能な限りの最善を尽くしたいと思っています。」


 喧騒の酒場の壁に、新聞の切り抜きをピンで留めて。
 「見ろ、こういうパイロットもいる。称賛に値する奴だ」
 男はそう言いながら、もともと紙質が良くない上にファクシミリを通して更に粒子の粗くなった写真の中、リボンのエンブレムを刻まれたF-15ACTIVEの傍らで真っ直ぐこちらを見据える「ISAFのエース」を指す。
 「各自、後で読んでおけ。見どころのある小僧だ…本調子でなかったといえ、4を墜とした奴だからな。こいつ、もう少し生き延びられれば俺の前に出られるかもしれん」
 呟いてから、彼はふと、かつて交戦した相手を思い出す。
 あの時叩き落とした、「惜しかった」F-15Cの尾翼にも、空色のリボンが描かれていた。始点から、ぐるりと回ってその裏側に還ってくるメビウス・リング。
 ならばコイツが墜とされても、また新たな「リボンつき」が現れるのか?いつまでもいつまでもぐるぐると。
 そんな事を一瞬考え、馬鹿馬鹿しいと一人くつくつと笑う男を、ハーモニカを持った少年が不思議そうに見上げていた。


 人垣の中心で、届いたばかりの新聞を皺になるほど握りしめて。
 「……少年兵……………?」
 娘は呆然と呟きながら、紙質のあまり良くない誌面を飾る写真の中、リボンのエンブレムを刻まれたF-15ACTIVEの傍らで微妙にひきつった笑顔を浮かべる自分の顔を見下ろす。
 「え、何それ!?…ぼ……僕そんなに男の子に見えますか!?」
 狼狽を隠そうともせずに周囲を見回すその肩を、ぽん、と叩く手が一つ。
 「まあ、落ち着けメビウス1。とりあえず俺の見解を述べさせてもらうなら……その貧相な胸板に色気の無い顔で一人称が「僕」ではどこから見ても立派な少ねn(めち)」
 常に一言多い管制官が相も変わらず余計な事を口走って、珍しく直接的手段に訴えたメビウス1に、その顔面へと容赦の無い本気パンチをめり込まされる。
 「黙れうるさいどうせB65だよ悪いかコンチャケショウッ!」
 一撃で昏倒した管制官の襟首を掴んで揺さぶりながら、血涙を流さんばかりの形相で血を吐くような絶叫を上げる彼女の鬼気迫る様子に、野次馬どもは蜘蛛の子を散らすように食堂を後にした。


 …後に、当時ISAF空軍のパイロットだった人物の一人は友人にこう語る。
 「いやあ、あのメビウス1があそこまでアツくなるってのにも驚いたけど、むしろあれでBもあったほうが俺は驚いたね。どう見てもAか、下手すればAAだろうって感じだったから。俺の見立て違いか…それとも、あれは彼女なりの見栄だったのかもしれないな。英雄だの死神だの言われたエースといえども、その点ではやっぱり彼女は「女の子」だったって事か」


黄13はきっと最後までメビウス1を少年と信じていたと思います。僕っ娘でド貧乳だもの、しかたがないさ。
とりあえずメビウス1の自己申告サイズに関しては真相は闇の中、ということで。