[TAINTED PEACE]:こぼれおちるもの。
今回の作戦目的は、ニューコムにとって有益な情報を持つ要人の撃墜。僅かでも相手の優位に立つ…この決して広くはない世界を二分する巨大企業にとっての至上命題。
<< 接近中のゼネラル機に警告!これ以上の接近は攻撃の意志があるとして迎撃する! >>
…エリックの声が、した。
作戦前のブリーフィングで、レナのSu-37が確認されていたから、UPEO機が…SARFが護衛についている事はすでに分かっていた。
この空域のどこかに、数カ月前までの仲間が飛んでいる。
そして今の自分は、GRDFのパイロット。
<< GRDF03,Engage! >>
戦闘空域に突入するために加速するF-15S/MTの前方から、同じく大加速で突っ込んでくる機影。
迎撃にくるのなら、こちらも墜とすまで。
所属も機種も気に留めず、ロックオンのサインだけ確認して、トリガー指示。
相手に切り返す余裕も何も与えず、出合い頭の一撃で叩き落とす確信があったから、撃ち出されたミサイルの行方も見る事なく、さらに加速。
すれ違うその尾翼に、UPEOのエンブレム。
SARF-03の、マーキング。
着弾、撃墜。
(……………!!)
理由も分からず、機首を引き起こして、反転した。まるで振り向くように。
四散して墜ちて行く機体なんか、もうとっくに見えやしないと分かっている、のに。
「……エリック…!」
呼んだって届かない。撃墜した相手に答える術は無い。
作戦の障害となる相手は墜とさなければ、こちらが墜ちるだけで。
なのに、これは何だろう。HUDの視界を侵食して、機体との接続の邪魔をする、このノイズは何故だろう。
<< GRDF03、失速している!どうした! >>
隊長機からの叱咤で、我に返る。
機体を立て直して上昇すれば、目標である要人専用機が鈍重な機体をどうにかこの空域から離脱させようと必死で試みている最中。その背後を守るように飛ぶ、特徴的なカラーリングのSu-37。
レナは、自分の技量では捕まえられない。墜とせない。
だが、目標は墜とさなければ。
<< …やっぱり俺は気が乗らねえ。これじゃまるで闇討ちだ >>
僚機から、苦いものを飲み込んだような声。
<< やはりお前はそう言うと思っていたよ。…仕方がない、キミが撃ちたまえ。私とキースは護衛機を引きはがす >>
その指示を残して、二機が急上昇。現時点でトップエースと呼ばれる男とその相棒、双方から揺さぶられながらも、しばらくの間専用機に貼り付いていたレナが、とうとう離脱する。
<< 今だ、撃て! >>
隊長機からの指示に了承の意を示して、F-15S/MTを旋回させる。
背後は、簡単に取れた。
ロックオン確認、セイフティ解除。あとは撃ち落とすだけ。
<< 逃げて、フィー…! >>
二機に追われるレナの放った短い叫び。
向けられたのは、専用機。
「…フィー?」
乗っている、のか、あれに。
レナの声に気を取られたその空白をついて、目標が僅かに動いた。
逃げられる。
そう思うよりも早く、反射的にトリガーを入れた。
まばたきするよりも短い間があって、着弾したミサイルが炸裂する。
炎が、上がる。
ゆっくりと、燃えながら、専用機は白銀の山肌へと吸い込まれていく。
低く、鈍い、爆発音がして……不意に、静かになった。
<< 良くやった、帰還する! >>
機首を翻す僚機について転進しながら、もう一度振り返る。
どうして振り返ったのかは、わからない。
だけど。
(任務遂行完了、問題なし…なのに、なのに、俺は、俺は…!)
ああ、どうしたらいいんだろう。どうしてこんなことになったんだろう。どうしてこんなきもちになるんだろう。
低く、搾り出すような呻き声を上げて、自動操縦に切り替えたコフィンの中で、己の顔を覆う。
HUDが、またノイズに埋まっていく。ざらざらと、ざらざらと、零れ落ちるように白磁線が流れていく。
先にUPEOルートをクリアしていたのもあって一番辛かったミッション。果たして主人公は、泣けるんだろうか。