[BUG HUNT]:侵食。

 夕日に染まった森の中に、ぽつりぽつりと点在する異形の構造物は…上から見下ろすと、まるで菌類のコロニーのようだ。
 あながちその連想も間違っていないかもな、と思いながら。
 << SARF-04、あまりナノバイトのドームに近づきすぎるなよ! >>
 僚機からの声にわかっている、と短く答えて、できるだけ迂回しようと進路を調整。
 本来の目的を見失った建設用ナノバイトは、とにかく自己増殖のために周囲の物質を侵食し、作り変えていこうとしている真っ最中…近くを飛ぶコフィンも例外ではない。
 「かれら」は自分たちの頭上を飛ぶのが中和剤を詰め込んだ爆雷(ANB)を抱えた戦闘機だと分かっているのかいないのか、今この瞬間も着々と意味のない(かれら的には意味があるのかもしれない)構造物を増やし続けていく。
 (まあ、あいつらにはあいつらの理由があるんだろうしな)
 自分たちのこの作業も、外から見たなら意味のない事に見えるのかもしれない、ぼんやりとそんな事を考えつつ、ANBを投下、旋回する作業を繰り返す。
 少しずつ数を減らしていくナノバイト群を数えて、あとは中和剤の連鎖反応で片付けられるだろう、と判断した彼が機首を翻しかけた瞬間。
 << いやああああああ、来ないで!わたし、わたし、ちがう…!あなたたちと、ちがう! >>
 かぼそい悲鳴が、通信域から響き渡った。
 << レナ!レナ!落ち着け!…SARF-04、エイビス!レナがドームに接触しちまった! >>
 手違いなのか、油断なのか。
 彼女がそんな単純なミスをする、というのが、こんな時だというのに意外に感じた。
 << 彼女に一番近いのはお前だ、フランカーにANBをぶちかませ! >>
 << SARF-04、了解。やれるだけやってみる >>
 頷き、彼は再度旋回。
 ナノバイトのドームから逃げるように、引き寄せられるように、ふらふらと不規則な軌道を描くSu-37の後を追いかける。
 正面へと捉えた、そう思った瞬間、HUDの視界が、警告で染め上げられた。
 群がる微小構造体に機体が侵食され、分解されていく様子がENSI経由で自分の中へ雪崩れ込んでくるかのような錯覚。あるいは本当に、機体だけでなく自分もナノバイトに喰われているのか。
 なにかが潜り込んでくる。縋り付くような、誘うような、なにか。
 おいで、こっちにおいで、ここにいて、わたしたちになって、いっしょに、いっしょに。
 (……来るな…!)
 足下から這い上がり、ゆるゆると全身を覆い尽くそうとする圧迫感に、息が詰まる。身体の内側から食い破られそうな錯覚に、眩暈がする。コンソールに伸ばしたはずの手が、空しく宙を掻く。
 (ちがう、俺は、おまえたちと、ちがう…俺は、俺は……!)
 俺は、何だろう?どこにいるんだろう、この赤い空の下、ツバメの舞うあの空、それはどこ?
 纏まりの無い思考の隅で、ああ、あのこも同じ事を感じていたんだ、と呟く自分がいる。
 遠くで誰かが何かを叫んでいる。機体からの警告?アイツの声?あのこの悲鳴?それとも俺の叫び声?
 いつの間にか高度が落ちていた機体が地面をかすめた衝撃で、不意に我に返って。反射的に上昇、反転し投下したANBがSu-37の尾翼付近で弾けると同時に、圧力が少し和らいだ。
 いかないで、ここにいて、わたしたちといっしょに、いっしょにいて、わたしたち、わたし、わたし、あなたと、いっしょ。
 「……俺は、おまえたちと、ちがう…あのこは、もっと、違う…!」
 縋り付くような気配を増した、しかしさっきよりずっと弱々しい「それ」に、かすれた声で、小さく呟いて。
 彼は、最後のANBを投下した。

地上爆撃がどうにも苦手&ナノバイトドームに間違って突っ込んで散々苦戦したミッション。
そもそも主人公、レナ以上に侵食されやすそうな気がする。