[an example of.]:不在の在。

 『よお、いるか?』
 コール画面の向こうで首を傾げる同僚に、受信中サインを点灯させて、ちゃんと聞いている事を伝える。
 『…お、良かった。まあ、あれだ。今日の訓練お疲れさん…って感じかな』
 それはあまり適切な挨拶じゃないのでは?と問い掛ければ、画面の向こうで苦笑する気配。
 『まあな…でもまあほら、チームメンバーはねぎらっとかないと』
 そういうものかな、と呟くと、そういうもんさ、と返ってきた。
 『ああ、それでだ。お前さ、前と飛び方変えたか?何か良い感じだったぜ』
 前はあからさまにレナとかフィーの機動のコピーだったけど、最近ちょっと変わったな、と言いながら。
 画面の向こうで、再度苦笑する気配がした。
 『しっかし…最初に試験機配備の話聞いた時は冗談かと思ったけどさ、最近は無人機制御技術も進んでんだなー』
 実戦での使用に堪えるだけの制御技術は自分よりも前からある、と答えると、ちがうちがう、と言って彼は手を振った。
 『お前そのものが凄いなあって。俺、初めはお前とマトモに会話成立するとか、そもそも話ができるとも思ってなかったぜ?』
 コールした先に誰もいなかったり書面で返事がくるのは相変らず変な感じだけどな、と言って彼が笑うので。
 「…だったら、音声での応答の方がいいか?必要ならメールやコール用に適当なアバターでも用意する、けど」
 それまでの文字通信から音声通信に切り替えた上で、そう提案してみたのだが。
 『いやいい、お前の「適当」って何か微妙に信用できねーからいい』
 その声だけならともかく、そこに全然似合わないツラとか出されたら俺はきっと笑い死ぬか白髪になる。
 何故か彼は、きっぱりとそう答えて首を振った。

ゲーム内以外にもいくらでも分岐があるような受け取り方のできるこの世界。
例えば最初から無人機制御用AIとして配備される主人公、というのも有り得たかもしれない。たぶんデルフィナスとセット。