[Sugarless GiRL(rmx)]:コッペリアとダンスを。

 << SARF04、着陸許可が下りた。指示に従って着陸せよ >>
 << SARF04、了解 >>
 ミッション終了後に帰投してくるコフィンを誘導し、無事に下ろすのは確かに管制官の仕事の一つだ。ああそうだとも。
 だがしかし、誘導に従って無事に下りるのは、それはパイロットの仕事じゃあないのか?
 << ……あ>>
 こんな時でも平坦な小さい叫び声と同時に、滑走路は間違わなかったが進入角度を誤ったらしいF-16XFが、滑走路上で尾翼を擦る。
 ごりっ、という鈍い音が聞こえてきそうなその光景を眺めながら、彼は盛大に溜め息をついた。

 ようやく回ってきた休憩時間に外へと出れば、喫煙所の隣、自動販売機の前に、珍しく彼女の姿。
 「…げんぽうしょぶんでわたしこんげつおさいふがぴんちなの、たすけてえりっくくんー」
 「男を惑わす悩殺ポーズと上目遣いを覚えたのは褒めてやる、が。棒読みじゃ無駄だというのも学べよ」
 「………」
 呆れ顔の同僚に置いて行かれ、その背中を恨めしげな無表情(矛盾しているがそうとしか形容しようがない)で見送りつつ。
 ポケットから小銭入れを引っ張り出し、しばらく中身を凝視していた彼女は意を決したようにコインを掴み出して販売機に投入しようとして…手を滑らせた。
 「………!!!!」
 手を伸ばしても間に合わず、コインは澄んだ音を立てながら販売機の下へ。
 「…あ、あーあーあーあー、待って待ってまって俺のコーヒーとパスタセット……くっ、あと、あとちょっと…!」
 珍しく、本当に珍しく、声を震わせ顔を強張らせて販売機の下を覗き込み、何とかしてコインを取り戻そうと悪戦苦闘する彼女の様子にうっかり見入っていたのに、そこでふと気が付いて。
 はて、これはもしかしてチャンスと言ってもいいんじゃないだろうか?
 (一応とはいえ)女性のピンチに付け入るような真似をするのは我ながらどうだろうと思いつつも、隙を捉えて攻め込むのも定石だよね、とひとりごち、彼は販売機前で這いつくばって運命と闘うその背中へと声をかけた。
 「お困りですか、お嬢さん」
 「…かなりの危機的状況です、自販機を使用するようであれば俺に構わずどうぞ」
 こちらを振り返ろうともせず、彼女はただひたすら真剣に販売機の下を睨み付けている。
 「何か僕にお手伝いできる事などは?」
 「申し出は有り難いですが、おそらくは無い…………」
 「あるかもしれないけどね、例えばコーヒー代を立替えるなり、食堂のセットでよければ僕の支払いでご一緒するなり」
 くるり、と振り向いた顔は相変らず無表情…ただ、疑問符で埋め尽くされた視線だけははっきりと見て取れた。
 「………ええと、その提案を断る理由は無い、んだけど…承諾する理由も見つからないんです、が」
 見ようによっては困っているように見えなくも無い顔で小首を傾げて、彼女は平坦な声で困惑を口にする。
 「理由ねえ…日頃過酷な任務についているパイロットを支援するのが管制官の仕事、これもまたその一環、って事ではいかがで?」
 冗談めかして返答すれば、意外と真剣な顔で腕を組んで頷く彼女。
 「………そう…いう事で、いいの、かな。ではご好意に甘えさせていただきます、という事で」
 果たしてこの説明で何をどうして納得したのやら、と思いながらも。
 ともあれ、どうやら我らがSARFのコッペリア嬢は、有り難いことにダンスのお誘いに喜んで…までとはいかずとも、一応応えてはくれるらしい。
 (とはいえ、こりゃまるで餌付けだね)
 内心小さく苦笑しつつ、彼は彼女の先に立つと、食堂に向けて一歩を踏み出した。


[愛しのコッペリア]の続編というかなんというか。ちょっとこの名も無き管制官氏が気に入ってきたので。
今後も何か思いついたら書くかもしれないし、これっきりかもしれない、そんな状態。