[Multi Movable System]:電子傀儡。

 いつものように食堂の薄くて甘苦いコーヒーをなみなみと注いだ紙カップ片手に、適当な座席を物色しながら。
 「…まあ、普段オマエにはあんま縁が無い場所だよな、確かに」
 聞き慣れた声にそちらを振り向けば、テーブルの上に視線を落として何やら喋っている同僚の姿。
 明らかに誰かに語りかけているのだけど、会話が出来るような近間に誰かが座っているという事もないし、その手に携帯端末を持っている様子もない。
 何かしら、と不審に思って覗き込んだその手元に、ちょこん、と座った全高15cm程度の少女人形。
 「…ふーん、エリック君には意外なご趣味があるのね」
 思わず呟けば、真っ赤になった同僚からの反論の声。
 「ち、違う…!エイビスだよコイツ、中身はアイツ!」
 『……エリックが何を動揺してるのかは知らんが、確かに俺だ、フィー』
 ぴょこり、と立ち上がった「それ」…エアロコフィンを模した外装を纏った少女、といった風情の小型ロボットが、そう言ってひらひらと手を振って見せる。
 その口から発せられているのは、ここ最近ですっかり聞き慣れた声…SARFで評価試験を行っている無人戦闘機搭載AIの、平坦ながらも柔らかい合成音声。
 「うわ、動いた!…っていうか、え?ほんとにキミなの?」
 『厳密には俺そのもの、ではないんだけど、まあそう言って問題ないと思う』
 「ネットワーク接続で動かせる、アクションフィギュア系のミニロボなんだ。そりゃーデルフィナスは勝手に動かせないけど、システムそのものはスフィアに常時接続してるわけだから、こういうの使えばコイツもある程度は好きなように動けるだろ?」
 「へー、最近はこんな面白いオモチャがあるんだ、へえー…」
 得意げに解説する同僚に思わず感心して頷き。
 『スフィア経由で遠隔操作する玩具、っていうのは結構多いんだけど、俺もこの使い方は想定外だったな。エリックに面白いものがあるから使ってみろ、って言われなければ気付かなかった』
 相変らず平坦な声な上に、顔があっても表情が変わらないので良く分からないが、なんとはなしに楽しそうに見えない事も無い様子でテーブルの上を跳ね回るメカ少女に微笑ましいものを感じて口元に笑みを浮かべ…ふとそれに気が付いて、彼女は思ったままの疑問を口にする。
 「………あれ、つまりこのフィギュア、エリックのなんだ…?」
 「……………」
 何気ないその一言に、彼は無言で視線を逸らした。
 『…………?』
 場に広がった何とも言いがたい沈黙に、『彼』は不思議そうに首を傾げた。

[不在の在]と同じ設定(主人公は最初から無人機搭載AIとして配備)でのSARFぐだぐだ話。
イメージ元はコナミのアクションフィギュア「武装神姫(http://www.busou.konami.jp/)」。ちょっと設定とかは違いますが「全高約15cmの少女型フィグロボ」というモチーフはここから。