[Prunus × yedoensis]:舞い散る花の下。

 彼女からの作戦指令コールを受け取ったのは、午前の終わり際。
 『今晩2030、5番滑走路の南で特別ミッションを行います。詳細は添付のテキストメールに書いてあるから目を通しておいて…あ、ちなみにこれはレナの提案によるSARF全体のミッションだからね?逃げちゃダメよ?』
 「…了解」
 …まあ、イースターだのクリスマスから年明けにかけての馬鹿騒ぎだのの『特別ミッション』の数々に参加させられ続けていれば、それが別に緊急事態でも何でもない事ぐらい、いい加減分かってはいるのだけど。
 こう言われるとつい参加しなければいけないような気がしてしまうのは、これは自分の癖、なのだろうか。
 (だとしたら、フィーは俺の事を非常に良く理解しているな)
 そんな事を思いつつ、とりあえずエリックが最低1時間前には決行エリアの確保してるはずだからそこに合流してね、と言われて。
 1950、指定された装備品(レジャーシートと500mlペットボトル緑茶3本、スナック菓子2つ)を担いで出撃。
 現場に到着してみれば、並木のうちの一本の下で膝を抱えて上を見上げる、見知った同僚の姿が目に入る。
 「……何してるんだ、エリック?」
 「おせーよオマエ…見りゃ分かるだろ、ハナミだよ、ハナミ」
 「…なんだよ、それ」
 「……何って言われてもなあ…とりあえずレナが言う事には、イーストユージアのほうじゃサクラが咲くとこうして観賞会するんだと」
 オマエもそっち方面の出だろ?と問われて、聞いた事ないな、と返す。実際、単語からして初耳だ。
 とりあえず、真似をして木の下に腰を下ろし、視線を上へと向けてみれば。基地の灯に照らされて浮かび上がるのは、枝一面に咲き誇り、ほろりほろりと花びらを零す薄紅色の小さな花。
 「……ああ、この花か。そう言えば最近滑走路脇で咲いてたな」
 「昼間の滑走路からも見えるけどさ、こうして夜見るとなんか凄くねえ?」
 妙に白っぽくてぼーっと光ってるみたいでさ、と言う声を遮るように、

 吹き抜ける夜風に、ざ、と花木立がざわめいた。

 ふわり。と。
 濃紺の空に、白く光る無数の花びらが舞い上がる。
 ざ、ざ、ざ、ざ、ざ、と、途切れ途切れに花叢が揺れる。その度に、吹雪のように花が舞う。
 「…………」
 声も出せず、花の舞う軌跡を目だけが追う。隣でも、息を呑む気配。
 やがて風は通り過ぎ、再び桜木立は静かに音もなく、ほろりほろりと花を零す。
 「…………すげえ、な」
 「……………ああ」
 ぽつりと呟く声に、同じように短く答え。
 そのまま黙って、花を見上げる。
 並木の向こうから聞き慣れた声が二つ、自分たちの名を呼ぶまで。


お花見話。ここまでは綺麗ですが、きっとこの後四人で花見宴会に発展してグダグダになります(笑
書いている時点で桜のピークは過ぎてしまったのだけど、物心付いた頃から桜の花が好きで好きでたまらないのです。ちなみにタイトルはソメイヨシノの学名。