[Dellusion]:そしてだれもいなくなる。

 黒い、黒い、夜の色をした大きな翼が音もなく羽ばたく。黒い翼には、白い女の顔。
 あまりにも現実離れした、けれども確かに目の前に展開している、その白昼夢めいた光景に思わず立ちすくむ。
 「どう、したの?」
 見慣れた防護服に身を包んだあのこが、シェードの向こうで小首をかしげた。
 その傍らで黒い翼の白い顔、見慣れたあのこの顔が、そっくり同じ動きをなぞる。
 「…少し疲れているだけだ、たぶん」
 だから何でもない、と首を振れば、それならいいけど、と控えめな頷きが、二つ。
 「…レナは、大丈夫か?」
 逆に訊ねれば、あのこは、いや、あのこの隣の同じ顔が、大きな瞳で大きく瞬き。
 「ううん、わたしは大丈夫。前よりずっと飛べるくらい」
 そう言う顔は、きっとうっとりと微笑んでいるのだろう。なぜなら隣で同じ顔が、同じ笑みを浮かべているのだから。
 「…あの機体は、レナ専用のワンオフだったな。扱いやすくて当然か」
 「ナイトレーベンよ…夜を渡る黒い翼。わたしの全て、わたしそのもの」
 あのこが、くすくすと笑う。黒い翼が同じ顔で笑う。
 それをぼんやりと見つめる自分の顔を映した、真っ黒いシェード。
 どこまでもどこまでもあのこの相似形な白昼夢。
 いつか、これは現実へと取って代わり、あのこは白昼夢に成り果てるのか。
 誰もいない、巨大な飛行船の中で。数少ない人の姿は、少しずつ相似形の影に取って代わられて、やがて誰もいなくなる。
 数を増やした影は、いつか世界に取って代わり。世界は、この艦のように空っぽになる。
 がらんどうの天のお城に君臨する王様のような革命家は、スフィアに焼き付いた影のようなあの男は、それで満足するのだろうか。
 脈絡の無い思考が流れる中、白昼夢はふわふわと笑い続ける。だからきっと、あのこも笑っている。

 …ああ、今、このシェードの向こうに、あのこの顔はあるんだろうか?

 そんな事を、訳も無く思った。


時折描いている戦闘機娘ネタのレーベンさんがレナと同じ顔をしている、という設定と、GRDF>ウロボロスルートの「革命軍メンバーの乗っていたコフィンの中に誰もいない」報道のされるEDからの連想というか妄想というか。
スフィアへと消えていく人たち。