[nightwalker]:夜に散歩。

 『こんばんは』
 「こんばんは」
 正門前、塀の上で猫が言う。
 塀の下、猫を見上げて彼が言う。
 『文字放送エントランスへようこそ。ご希望のチャンネルを選んで下さい』
 「ユージアニュース、地方情報のエキスポ・シティ周辺エリアを」
 『ご指定のチャンネルに接続しました、ご利用ありがとうございます』
 「どういたしまして」
 猫に渡されたタブロイド紙を片手に、彼はもう一度猫を見上げる。
 うずくまった姿勢のまま、猫は彼を見下ろす。
 「先月から、ずっといますね。春と同じ、期間限定のナビゲーターですか?」
 『はい、設置期間は5月から7月までです。夏季からはエントランスデザインを一新し、新たなナビゲーターがお出迎えいたします』
 彼の問いに簡潔に答えて、猫は笑顔めいた表情を見せる。
 猫の答えに小さく頷いて、彼はしばし沈黙してから口を開く。
 「…俺、よくここのニュース読んでるんですよ」
 『日頃のご愛顧、ありがとうございます』
 「パイロットやってるんです、だから映像ニュースはなかなか見られなくて。ここだと好きな時に読めるんで、楽です。アーカイブ検索もしやすいし」
 『恐れ入ります。今後ともサービス向上に勤めてまいりますので、よろしくお願いいたします』
 紙面に視線を落としながら、彼は思うままに言葉を紡ぐ。
 彼を見下ろしながら、猫は接客要項通りに言葉を返す。
 「……俺たち、良く似てるけど全然違いますね。面白い」
 『恐れ入ります。文字放送では、これからもお客様の満足行くサービスを提供し続けたいと思っております』
 金色の目を細めて彼を見下ろし、猫は耳まで裂けた口で笑った。
 琥珀の目を丸くして猫を見上げ、彼は少し遅れて笑みを返した。


絵板に書いた小ネタを少々手直し。絵板では「彼女」だったのをいつもの「彼」に。スフィア上にはちょっとした応答プログラムやら簡易AIがごろごろしているんだろうな、[彼/彼女]は意外とそういうものとおしゃべりするのが好きかもしれないなという思いつき。
猫は黒猫。おわあ、こんばんは。