[SELF AWARENESS]:迷わない翼。

 黒い翼が、墜ちてゆく。
 あのひとが「羽根を毟られたカラス」と例えた、その言葉通りに墜ちてゆく。
 あのこの抜け殻を抱いたまま、ゆっくりと。
 「…………レナ…」
 地表に吸い込まれるように墜ちて行く翼を見送りながら思わず呟いた声が聞こえたのか、あのひとが、くくくっ、と小さく笑う。
 (感傷かね?オマエらしくもない。いや、「らしい」と言えば「らしい」行動、とも言えるな)
 こういう時は感傷に浸るほうが、よりそれらしく見えるというものだ、と再度笑って。
 << オマエ達、ニューコムに戻れ。手は打っておいた >>
 << …どういうつもりか知らないけど、今は感謝しておくわ >>
 共用回線に告げられた言葉に、聞き慣れた力強さをすっかり失ってしまった彼女の声が、疲れたように答えを返す。
 << なに、ワタシとしてもこれ以上つまらない理由で大事な実験の被験者を失いたくないだけだ。では、待っているぞ >>
 含み笑いを残したあのひとは、一方的に通信を切る。後に残るのは、沈黙だけ。
 << …隊長(チーフ) >>
 << うん…… >>
 あまりにも長い沈黙に声を掛ければ、やっぱりどこか虚ろな声。まるで、あのこに続いて彼女まで抜け殻になってしまったかのような。
 << ありがとう、ね。最後まで付き合ってくれて。…だから、今度は、あなたが…行き先を、決めてくれる? >>
 << 隊長…?それは、どういう… >>
 << ニューコムに戻ってもいいし、どこか…全然、知らない国でもいい。今度は、私があなたに付き合うから、ね、お願い >>
 突然の懇願に、その意図が解らず問い返しても、重ねて請われるばかりで答えは返らない。
 どうしたらいいのか、こちらが訊きたいというのに。
 自分で行き先を選べと言われても、そんな事は…できない。この先、自分がどうしたらいいのかなんか、分からない。
 (なあに、オマエが困惑する必要などない。そもそも、オマエにそんな権限など最初から与えられていないのだからな)
 あのひとの声が、不意に耳元で囁く。
 (さあ、早く帰ってこい。言っただろう、待っていると)
 どうして、と訊ねるよりも早く、道を示すその声が思考を塗り潰す。
 言われたままにニューコム本社を帰投先としてセットし、デルフィナス#3を回頭させれば、追い縋るように彼女の声が追い掛けてくる。
 << …ねえ、どうしたの?どうして、答えてくれないの?ね、答えて……聞こえて、ないの? >>
 どうしてあのひとが笑うのか、どうして彼女が泣きそうなのか、どうして自分はあのひとの声に従っているのか、何もかもが分からない。
 それでも目の前に道を示されたのなら、それに沿って飛ぶだけ。
 それしか、できないのだから。
 (ようし、よし…いいコだ…いいコだな、オマエは)
 飛び続ける、その耳元で。
 あのひとが、満足そうな笑い声を上げた。


ちょっと初心に戻って、自主性が薄すぎて自分で何かを決められない主人公ネタを。ピノッキオにもなれない、人形師が手繰る操り人形。
3のミッションタイトルは時々ミッション内容とまるっきり相反するタイトルが付けられてたりしますが、このミッションとかまさに典型な気がします。