[SchrÖdinger's cat]:観測者の消えた箱。

 色の無い空に、黒い翼の残骸が吸い込まれるように消えていくのを見送って。
 見慣れた青空の下で、翼を翻して。
 そこで、初めて気が付いた。

 今、自分は、ひとりなのだと。

 << …誰か、いないのか? >>
 問い掛ける声に返答は返らない。
 << ……レナ? >>
 あのこは、いなくなってしまった。砂のようにぼろぼろと崩れ落ちて、跡形も無く。
 << ……先輩? >>
 彼は、去っていってしまった。あのこを道連れに、穏やかな声で別れを告げて。
 << ……ディジョン? >>
 あの男も、消えてしまった。自分が追い掛けて捕まえて、消してしまった。

 << …誰も、いないのか? >>

 そう、口にした瞬間。
 ぞくり、と背筋が粟立った。その感覚すら、まるで他人事のように遠い。
 他人?自分?それはどうやって区別する?
 自分と、そうでないひと。
 俺を俺の名で呼んで、自分と区別するひと。
 そのひとたちが、俺に、自分のカタチを認識させてくれていたのに。

 誰もいない。今、ここには誰もいない。
 ここにいるのは、誰でも無いものだけ。
 ならばここには、誰もいない。

 ああ、誰か。誰でもいい、誰か。

 声をかけて。

 名前を呼んで。

 俺が、ここに存在するのだと、確認させて。

 << …だれか、こたえてくれ、だれか >>

 今にも消えてしまいそうな、かすれた声が自分のものなのか、それすらももうわからない。
 ここにいるのは、だれ?
 そこにいるのは、だれ?


 そして、だれもいなくなる。


GRDF>ウロボロスの最後で、「彼」の乗ったゲイムはどこに行くんだろう、と初プレイからずっと思ってるんですが。他人によって「個」として認識されてないと自己が維持できないから、誰もいなくなってしまえば「彼」も消えてしまう、と言うのも有り得るなと思いつつ。
本来の「シューレディンガーの猫」とはちょっとニュアンスが違うんですが、まあ何となく猫の入った箱を連想してみたりしたわけで。