「何だい今更…訳を聞かせて貰いたいね」

 愛用の太刀を受け取れば、その感触は既に懐かしい。突然狩りに誘われ、ジスカは訝しげな表情を隠す事が出来なかった。だが、鋭い視線を受けて尚、ポッケは普段通りの笑みを絶やさない。しかしもう、その温和な表情を真に受ける事は、ジスカには出来なかった。

「今夜は祭でね。御馳走が必要になる。リーネを祝う気持ちがあるなら是非…どうかな?」

 愛刀を抜き、その刃を確かめながら。ジスカは大通りの切り株に腰掛け、周囲をそれとなく見渡す。村は今、祭の準備に忙しい村人が行き交い、誰もが浮かれ気分で日が沈むのも待ち遠しい様子。一夜明けた今日、村は第二のモンスターハンター誕生に活気だって居た。

「今の今まで狩りを禁じてさ…それで誘われれば、勘ぐりもするさ。そうだろう?」
「参ったな…ジスカ、他意は無いんだ。それと、キミに真実を見せたくてね」

 初めて会ったあの日のポッケなら、弟子を祝う祭に華を添えようという気持ちは解る。だが、ここ最近のポッケを、ジスカは信用しきれずに居た。それは同時に、自分が村の秘密に近付いているとも信じたかったが。そんな彼女にとって、今の一言は抗い難い魅力を秘めている。

「真実?ではやはり、この村に偽りがあると?」
「事実は見せてきた。真実はこれから…ただ、偽りは無いよ。ボクにもこの村にも」

 さてどうしたものかと思案に暮れつつ、漂わせた視線が一組の少年少女を捉えて。ジスカはポッケの申し出を受ける事にした。神秘と謎の渦中に居る本人が、自ら真実を見せるというのだ。図書院の人間として、断る理由は微塵も無い。何より、先程から二人並んで祭の準備に勤しむ、リーネとアズラエルを見てしまったから。

「…この季節だと、何が美味しいのかな?この村近辺じゃ」
「ドスファンゴでも狩れれば、みんなで一晩食い放題だけど」

 確かにそれは手頃な獲物で。そこだけを聞けば、共に狩りに生きるハンター同士の会話とも取れたが。

「この辺じゃ、見た事も無い怪物も居るらしいからね。一応聞いてみただけ」
「それも全部見せるさ。その目で見て、その耳で聞くといい」

 ジスカは忘れてはいなかった。図書院で今回の任務を引き受け、禁忌の山と言われるこの地に足を踏み入れたあの日を。白い闇に閉ざされた、吹雪と豪雪の奥深く…この村へと続く死の道。そこで遭遇した、見た事も聞いた事も無い異形の怪物。

「アズラエルやわたしに狩りを禁じたのは、あの怪物のせいだろ?」
「…半分は正解、かな?兎に角、ボクを信用して欲しいな…今日だけでも」

 リーネが喜ぶ、とだけ最後にポッケは言った。確かに、今夜の晩餐に出されるメインディッシュならば、何もジスカの手を借りるまでも無い。普段通りポッケが狩ってくれば良いのだが。ジスカは自分が獲物を狩って戻った時の、リーネの笑顔を思い描いた。それが自分を祝う祭の席に出されるとなれば、喜ばずには居られないだろう。

「いいさ、付き合おう…実を言うと、リーネの事は可愛くて仕方がないし」
「ありがとう、ジスカ。キミは自力で真実に近付いている…だからもう隠す必要も無い」

 腹の探り合いを終えて、取りあえず二人は連れ立って歩き出した。出る者も限られ、入る者の居ない村の門へ向けて。振り向くジスカは再度、賑わう村人達の中に今日の主役を見つける。その笑顔、その傍らに立つ少年の微笑み…それを瞼の裏に焼付けて。ジスカは一人先行くポッケの後を追って、この村を久方ぶりに出て、狩場へと旅立った。